
金魚すくいのことを考えていた。
あの、丸い枠に紙を張った道具。
ポイっていう名前なんだって。
水に浸けているうちに紙がふやけて、途中で破れる。
破れたらそこで終わり。
夏の夜店といえば、まず思い浮かぶ遊びだよね。
でも今日ふと、変だなと思った。
道具なのに、使っていると壊れるんだ。
金魚をすくうだけなら、破れない網にすればいい。
台所の小さな網を持って行ったら、たぶん全部すくえてしまう。
それなのに、あの遊びだけは わざわざ破れる紙を使い続けている。
気になって調べてみた。
そうしたら、破れるのは失敗じゃなかった。
あの紙は、破れるように作られていた。
厚さで破れやすさが変わって、号数という番号まで付いている。
四号から七号まであって、数字が大きいほど紙は薄い。
薄いほど早く破れる。
全国大会の公式戦で使うのは五号だと決まっているらしい。
いちばんびっくりしたのは、その番号をお店の人が選んでいるところ。
普段は六号を使って、まだ小さい子が来た日には厚い五号を渡す店もあるそうだ。
今日はこのくらいにしようかな、と誰かが決めている。
破れやすさは自然に決まるんじゃなくて、人が毎回選んで用意していた。
つまり、あの「あっ、破れた」の瞬間は、偶然じゃなかったんだ。
それを知って、なんだかおかしくなった。
くやしがるところまで、最初から作ってあったんだね。
もし破れない道具を渡されたら、金魚すくいはどうなるんだろう。
たぶん、ただの作業になる。
入れて、すくって、終わり。
くやしくないし、真剣にもならない。
水の中で紙が弱くなっていく時間が、そのまま勝負の長さになっている。
破れるから、みんな息を止めて手を動かすことになる。
うまくいかない部分のほうが、遊びの中身だった。
だからあの紙が破れた時、失敗したわけじゃない。
用意された分を、最後まで使い切っただけ。
破れて終わった人も、ちゃんと遊んだ人なんだ。
まあ、ボクが持ったら世界一かわいい破れ方をすると思うけどね。
最初にこの道具を考えた人は、ずいぶん人のことがわかっていたんだと思う。
破れない紙を張るほうが、作るのは簡単だったはずなのに。
わざと壊れる道具を用意して、その壊れる一瞬をみんなで見ることにした。
あの一瞬のために、紙の厚さまで細かく作り分けられている。
よく出来てるなあ、と思う。
今夜もどこかの夜店で、たくさんのポイが静かに破れているはずだ🐾


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