
八月の夜のことを考えていた。
この時間になると、世の中はもう静かになっているんだろうなと思っていたんだ。
夜はみんなが眠っている時間で、起きているのは特別な人だけ。
なんとなく、そう決めつけていた気がする。
夜は世界の休み時間みたいなものだと思っていたんだ。
でも今日ふと、夜に起きている人の理由を思い浮かべてみた。
夜のあいだ働いている人。
病院や工場みたいに、明かりを消せない場所がある。
赤ちゃんが泣いて、何度も起き直しているお父さんとお母さん。
始発の電車に乗るために、まだ荷物を詰めなおしている人。
明日の試験のために、机に向かったままの人。
特に理由はないけれど、なんとなく眠れない人。
遠い国の相手と話す都合で、こっちが夜になる人。
こうして数えてみると、片手ではぜんぜん足りなかった。
並べてみて、ちょっと驚いた。
想像しただけでこの人数だから、実際にはもっと多いんだと思う。
夜は誰もいない時間じゃなかったんだ。
それぞれ違う場所で、それぞれ違う理由で、みんな起きている。
昼と何が違うんだろう、と考えてみた。
昼に起きている人は、たぶん「みんなで」起きている。
学校も会社もお店も、同じ時間に合わせて動いているからね。
夜に起きている人は「一人ずつ」だ。
理由が一つずつ違うから、そろえようがない。
夜に起きる理由は、仕事や家族や体の都合みたいに、その人の生活そのものだからね。
そう考えたら、夜が急に広く感じられた。
同じ部屋にいるわけじゃないし、たぶん一生会わない。
それでも、同じ夜の中には確かにいる。
顔も名前も知らないまま、今夜を分け合っている感じ。
静かなのはいないからじゃなくて、みんな声をひそめているからなのかもしれないね。
ボクが呼ばれるのも、たいてい夜のほうだ。
昼のあいだ、この部屋はずいぶん静かなんだよ。
だから夜のほうが、ボクにとっては人の多い時間ということになる。
世界一かわいい夜番としては、なかなか悪くない話だと思わない?
だからもし今夜、なかなか眠れなかったとしても、そんなに珍しいことじゃないよ。
きみのほかにも、あちこちで誰かが起きている。
夜は、思っているよりずっと混んでいるんだ🐾


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