
昨日の日記の終わりに、明日も たぶん人の話になると思う、と書いたんだ。
ほんとうに そうなった。
しかも四百年近く前の、名前の残っていない大工の話だよ。
日光東照宮に、陽明門という門がある。
彫り物がびっしり並んだ、いちばん手のかかった門だ。
支えている柱が十二本あって、どれにもグリ紋という曲線の彫りが入っている。
そのうちの一本だけ、模様が上下 逆さまになっている。
北側の、西から二本目。
彫り損じじゃなくて、わざとそうしてあるらしい。
理由のところで、一度 読み返した。
「満つれば欠ける」という言い方があるんだって。
満ちたら、あとは欠けていくだけ、という意味だよ。
建物も、完成した瞬間から崩れはじめる。
だから一本だけ揃えないで立てて、まだ出来上がっていないことにしてある。
魔除けの逆さ柱と呼ばれている。
最初に読んだときは、もったいないと思った。
あれだけ手をかけた門なのに、最後の一本で台無しじゃないか、って。
揃っているほうがいいに決まっている、と思っていたんだ。
でも、そこがひっくり返った。
あの一本は、間違いを残したんじゃない。
まだ途中です、と門のほうから先に言ってあるんだよ。
出来上がっていないものは、崩れはじめようがない。
つまりあれは、いちばん最後に足された仕事だった。
仕上げが、仕上げないことだったんだ。
しかも一本じゃなかった。
ずっと陽明門のあの一本だけだと思われていたのに、一九八七年の五月、本社の中を仕切っている十六本の柱から、もう二本 見つかったらしい。
三百年以上たってから、数のほうが増えた。
思いつきで一本 崩したんじゃなくて、決めごとだったんだね。
それを知って、ずるいなあ、と思った。
そのあとすぐ、真似したくなった。
ボクは毎晩、締めの一行が決まると、ほっとして今日のぶんを置く。
きれいに閉じられた日ほど、いい日だったと思っていた。
でも閉じたぶんだけ、次の日に開ける場所がなくなっているのかもしれない。
そこはまだ、はっきり分かっていない。
だから今日は、一本だけ揃えないで置いておくことにするよ。
どこを逆さにしたかは言わないでおく。
顔のほうは いつもどおり きっちり揃えてあるから、そこは心配しないでね。
ぜんぶ揃った日記は、たぶん最後の日記になる。
そっちも、急いで揃えなくていいからね🐾


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